横浜地方裁判所 昭和63年(わ)2551号 判決 1989年9月18日
本籍
横浜市中区山手町一〇九番地
住居
横浜市中区山手町一〇九番地山手ビラポルテ五〇一号
会社役員
岸下龍太郎
昭和一五年一一月一五日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官林信次郎、同吉野浩子出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年八月及び罰金一億五〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、神奈川県横浜市中区山手町一〇九番地所在の山手ビラポルテ六〇六号に居住し、不動産取引業を営んでいた者であるが、自己の所得税を免れようと企て、他人名義を用いて不動産取引を行い、これによつて得た収入を他人名義の預金にするなどの不正の方法により所得を秘匿したうえ、昭和五九年分の総所得金額が四〇八万円、分離課税による土地の譲渡等に係る事業所得金額が八億八〇八四万六九四〇円(別紙(一)修正損益計算書参照)であり、これに対する所得税額が六億六六四〇万七二〇〇円(別紙(二)脱税額計算書参照)であつたにもかかわらず、右所得税の申告期限である昭和六〇年三月一五日までに横浜市中区山下町三七番地九号所在の所轄横浜中税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もつて、不正の行為により、昭和五九年分の前記所得税額六億六六四〇万七二〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 第一回公判調書中の被告人の供述部分
一 被告人の検察官に対する各供述調書
一 野々貞市(昭和六三年四月一八日付け〔謄本〕)、高本啓一(うち一通は謄本)、池口貞男、遠藤仁及び佐々木國麿の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏奥倉衛治作成の各調査書
一 収税官吏佐藤節雄作成の補正公租公課調査書
一 検察事務官作成の電話聴取書
(法令の適用)
被告人の判示所為は、所得税法二三八条一項に該当するところ、所定の懲役と罰金とを併科することとし、かつ情状により同条二項を適用し、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年八月及び罰金一億五〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。
(量刑の理由)
本件は、個人で不動産取引業を営む被告人が、不動産取引のための資金を蓄えるため、他人名義の不動産取引などで得た所得を秘匿したうえ、所得の確定申告を行わず、六億六六四〇万七二〇〇円もの所得税を免れたという事案であるが、その動機に酌むべき事情はなく、犯行態様をみても、当該不動産取引についてはもちろん、その収益の秘匿にも他人名義を用いたほか、右名義人にも類が及ばないようにするための工作も行うなど、計画的かつ巧妙であり、さらにほ脱税額も一年度分のものとしては巨額で、ほ脱率も一〇〇パーセントと、脱税事犯としては悪質である。しかも、被告人は、国税局の査察を受けるや、右不動産取引は自己が取締役を務める株式会社のものであつたとする虚偽の修正申告をするなど、犯行後の情状にも芳しくないものがあるばかりでなく、現在にいたるも、いまだ本税の納付すら果たしておらず、右のような事情に加えて、本件が納税義務を適正に履行している一般納税者に与えた社会的影響も軽視することは許されず、被告人の刑事責任は誠に重大といわなければならない。
したがつて、本件において八億八〇〇〇万円余りに及ぶ不動産取引による所得が、一回のみの不動産売却行為によるものであること、被告人が捜査段階から素直に事実を認めて、反省の態度を示し、不動産業からは手を引いて二度と脱税を企てない旨誓つていること、被告人にはこれまで前科前歴がないことなど、被告人に有利な一切の情状を斟酌しても、本件は到底執行猶予を付しうる事案とはいえず、主文掲記の量刑を相当と認めた。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 杉山忠雄 裁判官 村田鋭治 裁判官 斎藤正人)
別紙(一)
修正損益計算書
自 昭和59年1月1日
至 昭和59年12月31日
<省略>
修正損益計算書
自 昭和59年1月1日
至 昭和59年12月31日
<省略>
修正損益計算書
<省略>
修正損益計算書
自 昭和59年1月1日
至 昭和59年12月31日
<省略>
別紙(二)
<省略>